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LOST MEMENTO 第一章~第一ドールフローラ~5

「何者だぁー・・・警察・・・警察・・・」

外で警備員が叫ぶ声が聞こえます。

 

「え?何が起こってるの?」

 

ヒュルルルルルル

 

ドカーーーーーン

 

大きな爆発音と共に絶望に立ち尽くすフローラの目の前で

展示場の天井に大きな穴が空き大きなフックのような物が鏡を掴みました。

 

>>>>>>

 

「え?なに?え?」

突然の事態にパニック状態のフローラの目に飛び込んで来たのは

ヘリの操縦席から大きく手を振る真っ白のスーツに真っ白のマント

シルクハットにベネチアンマスクで顔を隠した男の姿・・・

 

「こんなことじゃないかと思ってたぜ!

こうなったらこれしか方法はないだろ?派手に行こうぜ!!!」

 

「え・・・?ちょっと・・・誰・・・ってマスター!?・・・え?・・・ちょっ・・・」

 

言葉にならないフローラ

絶句し口をぱくぱく動かしています。

 

するとマスターはヘリを飛び降り警察や警備員に向かって

「ハハハハハッ私は怪盗シャルロット・グランシア!!鏡は頂いて行きますよ!」

とポーズを取りながら大声で叫ぶと、再びヘリに飛び乗り上空からロープを投げました。

「ハァ・・・何してんのよ・・・」

と呆れ顔のフローラの体にロープが巻き付きました。

 

「え?・・・え?・・・」

 

パニックになっているフローラと共に鏡を一気に引き上げるマスター

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!・・・・うっそおぉぉぉぉぉぉぉー!!!!」

と叫びながら宙を舞うフローラ

 

「ハッハッハッハ・・・」

と楽しそうに無邪気に大声で笑いながらヘリを操縦するマスター

そうして鏡とフローラを吊り下げたまま飛び立って行きます。

 

そのまま逃がすわけには行かない警察はパトカーでヘリを追いかけます。

助手席に乗っている警部は拡声器で叫びます。

「シャルロットだかなんだか知らんが、何をしてるか解っているのかー!?

私たちからは逃げられないぞー!返せー!!!」

 

「ハハハッお決まりのセリフだなぁ・・・つまらん・・・もっと捻ろうぜ」

と、完全にこの状況を楽しんでいるマスター

「キャー!!・・・マスター!!・・・マスター!?・・・いい加減何とかしてよー!!!」

と半分泣き叫んでいるフローラ・・・

 

「あ!そうだった!ごめんごめんっあまりにも楽しくて忘れてた・・・」

と、フローラを操縦席まで引き上げます。

 

「はぁ・・・はぁ・・・なんなのよ・・・いくらなんでも無茶苦茶じゃない!!」

と呆れた顔のフローラ。

いつものおしとやかな口調も忘れてしまっているようです。

 

「それにしても何で解ったの?」

「ん?だって鏡は正体が解らないように化けるほどの物だろ?

当然それだけじゃないだろうな?って思っていたんだよ・・・」

 

今こうしていられるのもマスターの強行突破のおかげです。

 

本当にこの人には適わないわ・・・

 

「・・・ってそれだけの理由でヘリ持って来ちゃうんだ・・・

ってゆうかマスターヘリの操縦出来たんだ!凄いわ!!何処で習ったの?」

 

「・・・習う?誰に?」

 

「え?」

と驚くフローラ。

時が止まったかのようにマスターを見つめたまま凍り付いています。

 

「そこの小さな飛行場に置いてあったからちょっと借りてきただけだよ・・・」

 

・・・・・・・・・・・・

 

「・・・?」

 

「えぇぇぇえぇぇぇぇ!?ちょっと下ろして・・・下ろしてえぇぇぇ!!

無理ぃぃぃぃぃ!!いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あぁもう、うるさいなぁ・・・ちゃんと飛んでるんだから別にイイじゃないか」

あっけらかんとしているマスターをよそ目に

 

「貴方には危険とかそうゆう概念はないのかしら?」

と怒り気味のフローラ・・・

 

「無いわけじゃないよ、たださ人間の考える事の大抵の事って出来る事じゃん

出来ない事って考えられないと思うんだよ、だから俺のイメージで出来ると

思ったからやってみたらやっぱり出来た・・・」

にこにこと嬉しそうに話すマスター

 

「ほんっとに滅茶苦茶な人ね・・・でも・・・助かったわ・・・

正直シソーラス・エッジで壊せなかった時途方に暮れていたし

私一人じゃどうにもならなかったもの・・・ありがとう・・・」

 

二人で顔を見合わせて笑い合います。

 

「でもさ・・・礼を言うのは下で群がってるパトカーを何とかしてからにしてくれない?」

フローラはハッとして下を見下ろします。

そこにはおびただしい数のパトカー・・・道をサイレンの赤い光が覆い尽くしています。

 

「・・・そ、そうね、まだ成功した訳じゃなかったわね・・・」

「さて・・・ここからどうするつもりだったのかしら?」

と尋ねるフローラに

 

「何も考えてない!」

とキッパリと答えるマスター

 

・・・・・・・・・・・

 

「え?・・・何も考えてない?え?それってどうゆう事!?」

フローラはビックリして飛び上がります。

 

「立ったら危ないよー」

「急がないとドンドン殖えてくるなぁ・・・」

「どっからこんなに湧いて出てくるんだ?警察も暇だなぁ・・・」

下を見下ろすと細い路地にパトカーが行列を作っているのが見えました。

 

街を抜け山を越えると水平線が見えて来ました・・・

「このまま海に出よう・・・」

 

パトカーの一行は当然のごとく浜辺で足止めです。

 

「海上保安庁とかも出てきそうだけど、こんな短い時間ではすぐには

来られないだろうから、今のうちにずっと遠くに行っちゃおう!」

と、相変わらず楽しそうなマスター

 

「はぁー」っと大きなため息をつき、何も言う気のおきないフローラ

 

「で、遠くはいいけどこの大物をどうするつもりなの?」

 

「だーかーらー全くもって何も考えてなかったんだよ・・・

壊せないなら盗むしか無いだろ?それに先のことを考えてる時間も無かったし・・・」

と相変わらずのマスター。

この人の後先考えない突発的な行動力には頭が上がらない・・・

 

「どこか・・・深い海の底に沈めるってのはどう?」

「いや、海に沈めても今はそれでいいかも知れないけど科学ドンドン進歩

してるんだ、いずれ見つかちゃうよ・・・」

「だったらどこか無人島に隠した方が確実じゃないかな?」

 

バタバタバタバタ・・・・

 

ヘリは太平洋の真ん中を進んで行きます。

赤道を越え南半球に入りしばらく進むと小さな島々の群れが見えて来ました。

 

「ここなんか良いんじゃない?とりあえずこのどれかの島に隠して

その先のことはこれからゆっくり考えようよ・・・」

考えもまとまらない。

ヘリの燃料も限りがある今それが最善策にフローラも思えました。

 

「えぇ、確かに海に沈めるより私たちの目の届くところの方が安心かもね」

 

ヘリは暫く島の上空を旋回し小さな島に着陸しました。

「さて、ここなら誰も住んでいなさそうだし、ここに俺たちの王国を作ろう!」

とマスターは相変わらずの突拍子もないことを言い出します。

 

「何バカなこと言っているのですか?早く隠さないと上空からは丸見えなのですよ」

落ち着いてきたのか、いつもの冷静な口調でフローラは言います。

 

「あっそうだね、俺たちを探してる訳じゃなくても無人島に人がいたら怪しまれるかも

知れないもんね・・・」

「とりあえず・・・住むところとかは後で考えるとして、鏡を・・・

あの森に隠そうか!」

と島の真ん中にある大きな森を指さします。

木々が多く茂り数メートル先もよく見えません。

 

「そうですね・・・とは言っても手で運べる大きさでないですから・・・

使えるものは使いましょう。あれで移動をお願いしますわ」

とフローラはヘリを指さします。

 

「わかった・・・じゃあ行こうか!」

とヘリに乗り込み森の中心部まで運び、鏡を下ろします。

ヘリは森の奥にある少し高くなった丘に置こうと言う話も上がりましたが

あまりに目立ちすぎてしまうので却下になり、

結局鏡は森の近くの砂浜に置き木の枝などでカモフラージュして隠すことにしました。

処理が終わったマスターは徒歩で鏡の所まで行き、フローラに訪ねます。

「ところで、とりあえず目的は達成できたけど、

お前はどうやってあっちの世界に帰るんだ?」

 

「・・・そのこと・・・なのですが・・・」

言い辛そうに口を噤んで俯いたフローラ

 

「ですが?・・・」

 

「どうしましょう・・・」

 

「え?・・・今なんて?・・・」

予想しなかった返答にマスターは耳を疑います。

 

「すみません・・・マスターのアトリエに帰るつもりでいたので・・・」

 

「俺のアトリエからは繋がっているのか?」

とマスターは始めて聞いた情報に驚きます。

 

「はい、マスターのアトリエの鏡にLOST MEMENTOとこっちの世界をつなぐ

道を作って私の魂がこちらに来たので・・・」

 

「・・・・・アトリエには戻れないなぁ・・・ヘリの燃料が・・・・」

 

「そうですよね・・・かなり遠くまで飛んできましたから・・・」

 

「さて、どうしたもんか・・・」

顎に手をやりマスターは考え込みます・・・

現在地がどこなのかもわからない。

 

ヘリで上手く大陸まで辿り着けたとしてもそこからの移動手段は?

アトリエに着くまでに捜査の目だって厳しくなっていくだろう。

のうのうと街中を歩くわけにもいかなくなる・・・

なにか・・・なにか方法は・・・

 

「マスター・・・ごめんなさい・・・」

しばしの沈黙を裂いたのはフローラでした。

 

「ん?急にどうしたんだ?」

とマスターは驚いた顔で聞き返します。

 

「巻き込んでしまって・・・本当はここまで巻き込むつもりなんてなかった・・・

私一人で終わらせて、マスターとの契約を切ってLOST MEMENTOに帰る

つもりでしたのに・・・本当にごめんなさい・・・」

小さなオッドアイの収まったアイホールから大きな涙の雫が次々と零れ落ちます。

肩を震わせて泣くフローラ・・・

 

「ハハッ、そんなの気にすんなよ、俺はフローラと契約した時点でそれなりの

覚悟はしていたぜ、それにこれしか方法がなかったんだからさ・・・

そんな事よりこの状況をどうするかを考えようぜ・・・」

震える彼女の肩に手を置いてマスターは笑って見せました。

そんなマスターを見てフローラの表情がぱっと明るくなります。

 

「マスターありがとう・・・本当にありがとう・・・」

涙に濡れた頬をぬぐいフローラは鏡と向き合います。

「そうですね・・・鏡の封印がとければ向こうの世界とつながるのですが

私には封印を解くほどの力はありません・・・」

っと話をしていたときです。

 

ゴゴゴゴゴゴゴッーーー

 

と地鳴りのような音が響きます。

 

「きゃっ・・・なに?何の音?・・・マスター怖いよ・・・」

フローラはマスターの足にしがみつき後ろにそっと隠れます。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッーーー

 

「お、おい、フローラ、あれ・・・あれを見ろ・・・」

 

封印され石で出来た門のような扉のような形になっていた魔鏡。

その石が地鳴りとともにひび割れて崩れて行きます。

バラバラと崩れ落ちて暫くすると中から鏡が出てきました。

 

「え!?ちっさ!!!」

思わずマスターが声に出します。

 

そうです。3mほどもあった魔鏡の仮の姿石の門。

石がなくなると2mほどのサイズのくすんだ金色のアンティークな姿見になったのです。

 

「え?なぜ?なぜ封印がとかれたの?・・・なぜ?」

とフローラは混乱しながら鏡に近づきます。

 

すると鏡の中から

「ぇさま・・・姉さまー・・・お姉さまぁぁー!!」

と声が聞こえたと思った瞬間、中から人が飛び出しフローラに抱きつきました。

 

フローラは目を見開いて抱き付いてきた相手を見ます。

「え!?メルティー・・・メルティーなの!?どうして?なぜ?」

どうやらフローラの知り合いのようだ・・・

「お姉さまぁ!!会いたかったのですーーー」

とメルティーと呼ばれる少女は抱きついた手を離そうとしません。

 

「わかった・・・わかったから・・・メルティーお願い・・・

黙ってこっちの世界に来た事は謝るわ・・・だからお願い

お願いだから放して・・・く、苦しい・・・」

とフローラは冷静に話しかけた・・・

 

「はっ!!すみませんお姉さま・・・やっと会えて嬉しくて・・・」

少女は慌てて腕を解き飛びのきます。

しかし余程寂しかったのか、すぐにフローラの腕にしがみつきました。

 

「先程もお姉さまの波動をたどって別の場所に行ったのですが誰もいなくて

再度お姉さまの波動を探っていたら封印されているはずの鏡から感じるんですもの

慌ててサーベストを呼んで封印を解かせたのですよ

水臭いじゃないですか、お姉さま一人でこちらの世界に来るなんて・・・」

頬を膨らませてフローラを見つめます。

 

「ごめんなさいメルティー・・・あなたにまで危険な目に合わせたくなくて

一人で来てしまったの・・・本当にごめんなさい

でも、どうしてわたくしがこっちに来てるのが解ったのですか?」

 

「それは簡単な事ですよ・・・お姉さまに会いにダイヤの国に行ったら

お姉さまがいないんですもの・・・ダイヤ王を問い詰めたら簡単に吐きましたわ」

ふふっと鼻で笑うように得意げに少女は話します。

 

「お父様ったら、あれだけ口止めしておいたのに・・・

でも、メルティー相手じゃ仕方ないわね・・・

メルティー・・・あなたダイヤ王に何したの?変な事してないでしょうね・・・」

とフローラが心配そうに訪ねます。

そんなにこの子は危ない子なのかとマスターはハラハラしています。

 

「なにって・・・何もしていませんわ、ただ・・・」

 

「ただなによ・・・」

とフローラは強い口調で聞き返します。

 

「うぅ・・・ただダイヤ王の腕にしがみついて、耳元でねぇ?お・し・え・て♡

って言っただけですー!」

とニヤニヤしながら答えます。

 

「メルティー!!!またあなたはそうやってダイヤ王をからかってーーー」

と怒り出すフローラに

「キャッ!ごめんなさぁーい!だって・・・お姉さまが心配で・・・」

としょんぼりする少女。

 

「まぁまぁまぁ・・・とりあえず落ち着いて・・・

フローラこの子は?とりあえず紹介してくれよ」

といままで呆気にとられていたマスターが我に返り

二人の間に割って入ります。

 

「あ、ごめんなさい・・・つい嬉しくて。

別にマスターの存在を忘れていた訳じゃないですよ・・・」

 

「いや、そうゆうツンデレ的なのいいから・・・」

と、呆れ顔のマスター

 

「この子はメルティー、レッドラング・メルティー。

わたくしの実の妹でハートの国の姫君です。彼女は・・・」

 

「メルティーです。よろしくお願いします。お姉さまが大変お世話になりました。」

とフローラが紹介している途中で割って入りながら

マスターの手を強引に掴んで強制的に握手して来ました。

 

「あ・・・え・・・よ・・・よろしく・・・」

とマスターは顔を真っ赤にしてそっぽを向きます。

メルティーはフランス人形のような幼い顔立ちに、金のような茶色のような

綺麗なロングの髪、細身の体に真っ白なワンピース

年下の女性が好みなマスターには理想通りの外見をもった少女・・・

マスターはあまりにも自分好みな女の子を目の前に

どういう表情をしていいかわかりません

元々人と関わるのが苦手なマスターには初対面というだけで緊張するのに

こんな条件が揃ってしまっては話すことすらままなりません。

 

「お姉さま・・・詳しい話はお城に戻ってから・・・さ、帰りましょう」

そんなマスターをさておきメルティーがまくし立てます。

 

「そうね、さあマスターも一緒に・・・」

とフローラはマスターに真っ直ぐ手を伸ばします。

 

「え!?俺も?」

予想していなかった展開にマスターは驚きを隠せません。

 

「はい、ここにずっといる訳にもいかないでしょう?

 

食べ物も何の設備もないのですからここにいては死んでしまいます。

戻るにしても万全の準備を整えてからでないと・・・」

 

確かにそうだ・・・無人島に漂流したのと同じ状態だもんな・・・

これからのことだってちゃんと話さないといけないし考えなきゃならない。

それなら、フローラの意見に乗った方がいいよな・・・

今まで絵本や空想、フローラの話の中で思い描いていた世界に足を踏み入れるのか。

どうやらまだまだ貴重な体験ができそうだ。

 

「それもそうだな・・・今ここから出る手段も他に無いし。」

とマスターは覚悟を決め、フローラの手を握ります。

「連れて行ってくれ、君たちの住む世界に」

フローラとメルティーは顔を見合わせて笑い合います。

 

「さあ、戻りましょう。LOSTMEMENTOへ・・・」

そして、フローラ、メルティ―、マスターの3人は鏡の中に消えて行きました。

 

 

                ~LOST MEMENTO~第一章 第一DOLLフローラ 完~

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