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LOST MEMENTO 第二章~鏡の世界~2

「メルティー、本当に短い時間だったけどありがとな。」

マスターは大きな手でメルティーの頭を撫でます。

 

「俺は俺のやるべき事をやるよ!

さてどうやって向こうの世界に帰ったら良いんだ?」

気持ちを切り替えたマスターは意気揚々とフローラに訪ねます。

 

「はい、先日メルティーが迎えに来たのと同じ方法を取るしかないと思います。」

 

「って事はサーベストさんの魔法って事だよね。ひとつお願いがあるんだけど・・・」

 

「はい?なんでしょうか?」

フローラは首をかしげます。

 

「俺、アトリエにはもう戻れないと思うんだ。

だから俺の家の色々な道具とかあの島に持って行きたいんだよ。

一度俺の家に繋いでもらって色々準備して、

それから島の鏡につないで欲しいんだ出来るかな?」

 

「はい、サーベストならできるはずですよ。

そろそろサーベストの来る時間ですのでマスターはメルティーと部屋でお待ちください。」

と言い残してフローラは部屋を出て行ってしまいました。

 

マスターは周りを見回して、どうしようかと考えていると

「マスター」

メルティーがソファーに座り隣を手でポンポンしています。

マスターはニッコリ笑いメルティーの隣に腰掛けます。

 

暫くの沈黙の後、最初に話しを始めたのはメルティーでした。

「マスターはこの世界をどう思います?」

綺麗なディープブルーの瞳がまっすぐに見つめてきます。

 

「随分唐突な質問だね・・・そうだなー・・・

フローラに出会うまでは考えもしなかったってのが本音かな。

色々な学者が生命が産まれるのはこの星だけじゃなく~って色々と議論はしているけどさ、

自分の星以外の生命体に実際に会った事も無いし、

会ったって話も聞かないしあくまでも空想上での話しだと思っていたからね。

ただ、今となっては当たり前とまではいかないけど

この数日間フローラと話して、生命のある世界が俺たちの世界だけじゃないって事を

リアルに感じて考え方から変わって来てるかな。」

話が難しいのかメルティーはきょとんとしています。

 

「まだこの世界の事は解らない事だらけだけどもっと知りたいって思ってるのが本音・・・

だけど今はこの世界に留まってる時じゃない、鏡をあのままに出来ないしさ。

せっかく苦労して盗んだのに、今のままじゃまた見つかるのも時間の問題だからね。

向こうの世界で鏡を守る為の環境を作らなきゃ」

メルティーは黙ってうつむいたまま、マスターの袖口を掴んで離しません。

 

「それにさフローラがあっちの世界に行く為のドールは作ったけどまだメルティーの分がないからさ。

まずあっちに戻ったらメルティーのドールを作って、

いつでも君がこちらの世界に来られるようにしなきゃいけないしさ」

するとメルティーは驚いた表情でマスターを見つめます。

「え?私のドール?作って頂けるのですか?」

 

「あぁもちろんだよ、メルティーにもこれから色々手伝って欲しいしさ。

せっかく知り合ったんだから、これっきりにはしたくないだろ?

だから、俺はこれからも一緒に居られる為の準備をあちらの世界でやってくるんだよ。

最後のお別れじゃないんだからそんなに悲しい顔しないでくれよ。」

とマスターはメルティーの頭に手を置き諭します。

 

「それに、君には大切な彼がいるんだろ?その人を大切にしなきゃ!

俺なんか気にしてないでさ・・・」

と今度はマスターの顔に寂しそうな表情が浮かびます。

 

メルティーは足元を見ながら話し始めました。

「そうですね・・・それはわかっています・・・

でも、彼、自由奔放で好き勝手ばかり・・・私の事なんか・・・

きっと私の事が大事なんじゃなくて、王や私の家族・・・

自国や私の国が大事なんですよきっと・・・」

と寂しそうな表情で訴えます。

 

「そんな・・・国が大事なのは王族の産まれなんだから仕方無いことだろ?

それに・・・なんだかんだ言っても彼の事が大好きなんじゃないのかい?」

とマスターは訪ねます。

 

「はい、好きです。悔しいですけど大好きなんです。」

少し涙目になりながら答えます。

 

「じゃあその大好きな彼の事信じてなきゃダメなんじゃないか?」

 

「そうですね・・・冷たいし、私の事どう思ってるのか全然解らないし

どんなに好きって言っても返ってこないし、何もかもが噛み合わなくて・・・

本当にこの人と一緒になって私幸せになれるのかな?

って事ばかり考えてしまっていて・・・でも、大好きな気持ちが消えなくて・・・」

 

「別に嫌いになる必要なんて無いと思うよ。

この先の事なんか誰にも解らない、このまま彼と結婚するかも知れないし

結婚しないかも知れない、それは誰にも解らない事だし。

好きな人と結婚したから幸せになれる訳じゃないしさ。

それに君は沢山の物を背負ってる立場だし、

好きって気持ちだけで何でも出来る立場じゃない・・・

それにさ、好きな人と一緒になったからって、一生幸せが続くか?って言ったら

それは違うと思うんだ、恋愛感情はいずれ消えるんだよ。

そのあとその気持ちが愛情や同情になる。

そうなった時に、恋愛感情が無くなった時に、それでも一緒にいられるか?なんだと思うよ。

君の立場を考えたら収入とかは考える必要はなさそうだけどさ、

一般的な女性は、どんなに大好きな人でもその人と結婚するってなったら、

相手の収入とか立場とか色々考えちゃう訳で・・・

ただ一緒にいるだけなら一緒に居られるけど、

結婚ってなったら自分の人生自分の一生を左右する事だからね、

じっくり考えなきゃいけないと思うんだ・・・

もしかしたら、メルティーの事を今の彼以上に大事に思ってくれる人が現れるかも知れないだろ?」

 

「でも、その人を私が好きになれるか解らない・・・それにその人を好きになったとしても、

今の彼を好きって気持ちが消えなかったら私はどうすれば良いの?」

とメルティーは泣き出してしまいそうになりながら聞きます。

 

「それはその時にならないと誰にも解らないだろうけどさ、

女の子はよく追いかける恋愛をしたがるけど、最終的にそれって恋愛してるうちは良いけど、男のいい様に振り回されてるって事じゃん?

いずれ歪は生まれてくると思うんだ、自分自身を考え直した時にさ・・・

好きだから追いかけていられるけど、恋愛感情が薄れて気持ちが同情に変わったら?

後は残ってるのは彼への依存だけなんだよ。」

 

「そう・・・なんでしょうか。」

メルティーは現実味が湧かないのか、いまいちピンと来ていないようです。

 

「うん、彼はもしかしたら何処かで気づいて優しくなったりする事もあるかも知れない。

でも、基本は変わってないんだよ。

性格なんてそう簡単には変えられないし、いずれボロが出てくる・・・

1年後か10年後かは解らないけど、いずれそうなると思うんだ・・・

それが例えば10年後だったとしようか、

10年後に離婚するとさ次に結婚するって年齢的にもかなり難しくなるんだよね。

それって幸せとは言えないと思うんだよ・・・

もしくは彼の方で考えたら、無理に優しくしてるわけじゃん・・・

かなり無理してるんだよ、本人が気づいていなくてもね・・・

いずれは「俺なんでこんな事してるんだ?」ってなる日が来るんだよ。

男ってさ自分の女は絶対に自分を振らないって変な自身を持つ生き物だからさ。

いざ、振られるとか別れるってなったらイキナリ態度変えて来たりとか平気でやるんだ。

女はそれに騙されるんだよ。

で気付いたときには手遅れ・・・恋は盲目って言うじゃん・・・

好きって気持ちだけが優先して冷静な判断が出来なくなるんだよね。」

自分の過去の経験も踏まえての事なのか、時折マスターは悲しそうな表情を浮かべます。

 

「もしもそうゆう人が現れたとしようか・・・俺はその人の元へ行くべきだと思うんだ。

彼を好きって気持ちを胸にしまったままでも良いと思う。

それは君は暫く苦しいかも知れないけど、それはきっと時間が解決してくれると思うんだ

女の子はやっぱり守られる生き物なんだよね。

だから本当に君の事を大切にしてくれて君の幸せを一番に考えてくれる人、

そして考え方とか好きな事とか物が同じような人ならさらに良いと思う・・・

趣味とか考え方とか好みの違いで離婚に繋がるなんて話はよく聞くからね・・・

君にはそんな思いして欲しくないからさ。

だから、もしも・・・もしもそんな人が君の前に現れたら今の彼を捨てて、

その人に思いっきり甘えれば良いと思う。」

と、マスターは遠くを見つめたまま話しをしていて気が付くと隣でメルティーが泣いていました。

 

「え?え?ごめん・・・俺、なんか言っちゃったかな?」

傷付けるようなことを言ってしまったのかと焦るマスター。

メルティーはそっと首を横に振ります。

 

「いえ、すみません、マスターが悪いわけじゃ無いんです。

今までこんな話しした事なくて、色々と考えてもそれを誰にも言えなくて、

あまりにも真面目に話し聞いてくれて、ちゃんと答えてくれたのが嬉しくて・・・

ごめんなさい。」

泣きながら答えるメルティーの頭をそっと撫でながらマスターは優しくメルティーを抱きしめました。

 

「・・・スター・・・マスター・・・」

とフローラの声が近づいてきます。

 

「どうやらサーベストが来たみたいだね・・・そろそろ行かなきゃ・・・」

とマスターは立ち上がりました。

 

まだ泣き止まないメルティーはマスターの袖を掴んだまま立ち上がります。

 

「メルティーごめんな・・・泣かせるつもりは無かったんだ・・・

あくまでも人生の先輩としてアドバイスしたつもりなんだけど、

俺も恋愛は上手くいった試しがないし、

それなりに経験は積んで来たけど結局はこの年で独り身だからなぁ・・・」

と、どうなだめて良いのかわからず自虐的な事を言い出します。

 

「マスターはきっと今まで本当に大切にしてくれる人に出会えなかっただけだと思います。

きっとこれからなんですよ。

マスターは私なんかの為に本当に真剣に向き合ってくれるような人です。

絶対にいい人に巡り会えますよ。」

涙を拭い、メルティーはニッコリと笑いかけます。

 

「ありがとな・・・どっちが励まされてるんだか解んなくなって来たな。」

とマスターは笑い出します。

 

「・・・マスター・・・マスター・・・!!」

フローラの声がどんどん近づいてきます。

 

「あ!そうだった・・・じゃあ・・・そろそろ行くね。」

マスターはもう一度メルティーの頭を撫でます。

 

「私もお見送りします。」

ぎゅっとマスターの袖口を掴んで離しません。

 

「ありがとう、じゃあ行こうか。」

メルティーと共に部屋を出ます。

廊下に出ると、この世界に来た時に通った廊下の一番端にある木の扉の前でフローラが待っていました。

「マスター遅いですよ・・・サーベストはもう部屋で準備しています。」

少し不機嫌そうなフローラ。

 

「ごめんごめん。」

小走りにフローラの隣へ来て、そのまま扉に入っていきます。

メルティーもマスターに続いて扉に入ります。

 

「メルティー・・・あなた、お城に帰らなくていいのですか?ジェイドが待ってるのでは?」

扉の向こうに向かって叫びます。

 

「いいのー、追いかけるより追いかけられるのでーす!」

 

「・・・え?なにそれ?・・・」

とフローラが驚いた顔で聞き返します。

 

「ないしょー」

メルティーはマスターの後を追いかけながら答えます。

 

階段を上がった部屋の扉を開けるとそこにはサーベストが精神を集中させながら

何か呪文のようなものを唱えていました。

「お待ちしておりましたよ、マスター・・」

とサーベストが呪文を唱えるのを止め言います。

 

「あ、ど、どうも・・・」

人見知りのマスターはサーベスト相手ではまだしどろもどろです。

「ではそこの魔法陣の中に・・・」

とサーベストはマスターを床に書いた魔法陣の中心に導きます。

 

マスターが中心に入るとサーベストは再度呪文を唱え始めます。

すると、魔法陣の周りを囲むように赤い光が立ち上り、

中心に向かって渦のようなものが迫ってきます。

 

突然のことに驚きマスターは思わず目を閉じました。

次に目を開いたときそこはマスターのアトリエでした。

 

「え?俺のアトリエ?いつの間に?」

とあまりに一瞬の出来事に驚きます。

 

すると頭の中に声が聞こえて来ました。

「聞こえておりますか?サーベストですぞ。」

 

「え?あ?は、はい・・・」

とマスターは辺りをキョロキョロしながら答えます。

 

「そちらにいるわけではございませぬ。テレパシーで心に直接話しかけております。

時間がないので聞いてくだされ。足元に魔法陣が光っているのが見えますかな?

その魔法陣がこちらとそちらを繋いでいる唯一のもの・・・

今光は魔法陣の一番外側から出ていると思いますが、

その光が段々と中心に寄って来て最後は魔法陣ごと消えてしまうのです。

そちらに滞在できる時間は時間はそちらの時間でおよそ1時間ですぞ。

それまでに準備を整え魔法陣の中心にお戻り下され・・・」

 

「わ、わかりました・・・」

とマスターは返事をすると同時に作業場に向かいます。

 

必要な物は曲を作る為の楽器類、絵を書く道具や書きかけの小説、

そして忘れてはいけないフローラを作った時の道具達。

これらを魔法陣の上に置きサーベストに語りかけます。

「サーベスト・・・ピアノは持っていけるかな?」

 

「はい、魔法陣の上に乗せることが出来れば可能ですぞ・・・」

 

「わかった、ありがとう。」

マスターは作曲に使っていたグランドピアノを引っ張り動かそうとしますが全く動きません。

「どうしよう・・・あ!そうだ!」

納屋に行き丸太を取って来てテコの原理でピアノを動かします。

 

何とか魔法陣の中までピアノを運んだ頃には光は薄れ、ほぼ中心まで来ていました。

マスターは汗だくで息を切らしながらサーベストを呼びます。

 

「ギリギリでございましたな」

サーベストの声が聞こえた瞬間、辺りが赤い光に包まれます。

 

光が弱くなるとそこにはフローラとメルティーの顔が見えました。

「マスターこんなにたくさん・・・」

と呆気にとられたような表情のフローラ。

「すごーい・・・なんかすごーい!」

とメルティーが言っているのが聞こえます。

 

光が完全に消滅するとサーベスト話し始めます。

「お帰りなさいませ。では、鏡を置いた島に繋ぎますぞ」

サーベストの持つ杖が光り始めます。

 

「ま、まってくれ!サーベストさん。

俺は島に行ってしまったらこちらの世界とはどうやって連絡を取ったら良いんだ?」

慌てたマスターは少し早口になります。

 

「おや、フローラお嬢様?お話しなさっていないのですか?」

とサーベストが驚いた表情を浮かべます。

 

「あ!ごめんなさい・・・言い忘れていました。

マスター、最初に契約した時のネックレスです・・・」

 

「え?ネックレス?」

 

「はい、もう契約は解かれているので体との同化も解かれているはずですが・・・?」

マスターはシャツの中を覗き込みます。

「あ、うん、これの事だね。」

と手にとって見せます。

 

「はい、それは身につけてるもの同士が会話出来る便利アイテムなのです。」

 

「そうなんだ、って事はこれを身につけていればいつでもフローラと連絡が取れる訳だね。」

 

「はい、そうですね。」

フローラがマスターと話していると、その横でメルティーがしょんぼりしています。

 

マスターはメルティーの表情に気づき

「メルティー、君のネックレスはないのかい?俺は君ともっと話したいな。」

と話しかけます。

 

するとメルティーの表情が一気に明るくなります。

「はい、あります!私もマスターとお話ししたいです。」

とネックレスを手渡してきました。

 

「ありがとう。」

マスターはネックレスを受け取ると早速首に掛けました。

「これでいつでも君たちと連絡が取れるな。じゃあサーベストさんお願いします。」

フローラと握手をし、メルティーの頭を撫でてから魔法陣の中心に立ちます。

 

「では、行きますぞ。」

サーベストが呪文を唱えます。

魔法陣が赤い光を発しマスターを包み込みます。

光が中心に集まり消えて行くともうそこにマスターの姿はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

                  LOST MEMENTO 第二章~鏡の世界~完

 

 

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