LOST MEMENTO 第三章~四つの世界~2
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「マクレーン・・・ダイヤ国は・・・大丈夫かしら・・・?」
フローラはパニックになりそうな頭を何とかしようと、必死に話しかけます。
「あぁ、俺も全てを把握している訳ではないから何とも言えないが・・・
俺の見て来た限りでは、ダイヤ国もハート国と同じような惨事になっている事は間違いない。」
「あぁぁぁわたくしはどうしたら・・・!」
フローラは頭を抱え髪を掻き乱します。
「落ち着けフローラ・・・お前がしっかりしないでどうするんだ?
姫であるお前がそんな顔をしていたら、国民の不安をあおるだけだぞ。」
とマクレーンは一括します。
「そうね・・・そうですね・・・わたくしはダイヤ国の姫ですものね・・・
マクレーン急いでくださる?」
今はまだ、泣いてはいけない。
フローラは気丈に振る舞います。
「さあ着いたぞ・・・城まで送ってやりたい所だが私の国でもテロが起きている、
急がねば・・・」
と、国の入口の門の前でフローラを下ろし自国に向かい駆け出して行きました。
「あなたも気をつけて・・・」
と囁き城の門に飛び込んで行きます。
フローラが国に入るとテロの起きた場所はすぐに解りました。
街の中心部より黒い煙があがっているのが見えます。
「あそこだわ!」
フローラは煙に向かい駆け出します。
フローラが現場にたどり着いた頃には既に騎士団が到着し
生存者の救出作業を開始している所でした。
現場は辺り一面地獄のようです・・・
建物はほとんど吹っ飛び粉々になり、瓦礫の下敷きになった動かなくなった者の体の一が顔を覗かせ、体の一部が吹き飛んだ死体がそこら中に転がっていました。
フローラはその惨劇を目にし泣き崩れます。
その時でした・・・
大きな手がフローラをぎゅっと抱きかかえました。
驚き目線を上げるとそこにはダイヤ国の王ワッシュバーンの姿が飛び込んで来ました。
「お、お父様・・・私・・・私・・・」
ワッシュバーンはフローラを強く抱きしめ、一言も口にせず惨劇の現場を睨みつけています。
どれだけの時がたったのでしょう・・・
ダイヤ王は騎士団長に城に来るように命じ、フローラをの頭を優しく撫で
馬に跨り遠くにそびえ建つジョーカー国の塔を睨み付けます。
「やはり鏡が関係しているのか・・・
フローラ・・・ネロに・・・マスターにもう一度力を借りる事になるかも知れないな・・・」
と呟きました。
「マスターに・・・もう一度マスターに会えるのですね・・・会って良いのですね・・・」
フローラは半分笑って半分泣きながら答えます。
「あぁ国の王として私の力の無さを思い知らされるがな・・・」
とワッシュバーンは苦虫を噛み砕いたような表情を浮かべます。
「お、お父様・・・」
フローラはそれだけ言うと口を閉ざしました・・・
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マクレーンは必死に馬を走らせます。
小高い丘の頂上にさしかかった頃クローバー国の方角から立ち上る煙が見えて来ました。
マクレーンは馬を止め煙を見つめます。
「こっちも・・・急がなくては・・・」
再び自分に、馬に気合を入れ直し走り出します。
しばらく走るとクローバー国の城門が見えてきました。
「私だ、マクレーンだ・・・門を・・・門を開けろ!」
遠くまで届くよう大声で叫びます。
マクレーン王子に気付いた門番は、急いで城門を開きます。
開ききった門を全速力で駆け抜け煙の方角へ急ぎます。
現地には騎士団、そして王も既に到着して救出作業もほぼ終わり
犠牲者の身元確認が行われていました。
マクレーンは王が父の様子がおかしい事に気がつき馬を降ります。
王の顔は青ざめ、今にも泣き出しそうな表情をしています。
しかし、それを必死に堪えて指示を出しています。
「父上・・・マクレーンただいま戻りました。これは・・・いったい何が・・・」
「マクレーンよ・・・今までいったい何処に・・・」
「申し訳ありません・・・フローラに会いにダイヤ国へ・・・」
「そうか・・・ミリアが・・・ミリアがたまたま買い物に来ていてな・・・」
と王は今にも泣き出しそうな顔でマクレーンを見つめます。
「え?今なんと・・・?」
驚いたマクレーンは聞き返します。
「ミリアが死んだのだ・・・爆発のほぼ中心にいて即死だった・・・!」
王はそう叫び泣き崩れてしまいました。
「・・・え?・・・そんな・・・母上が・・・?」
マクレーンは全身の力が抜け、その場に崩れ落ちてしまいました。
「母上が・・・母上が・・・あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!」
頭を抱え気が狂ったように悲鳴をあげます。
マクレーンの悲鳴を聞いて冷静さを取り戻した王はゆっくりと立ち上がりマクレーンを抱き起こします。
「マクレーンよ・・・今の段階で証拠がある訳ではない・・・
だが、ジョーカー国がやった事に間違いは無いと思うのだ・・・」
「何の罪も無い我が国の民やミリア・・・
いったい何をしたと言うのだ・・・ただ平和に暮らしていただけではないか。」
「絶対に許してはならん・・・こんな事が許されて良いはずがないのだ!」
「使いを出せ!!!スペード国、ダイヤ国、ハート国に使いをだすのだ!
各国の状況の把握と、ジョーカーとの戦争の意思確認をするのだ。」
「わ、わかりました・・・直ぐに。」
と騎士団長は答え部下に指示を出します。
「ジョーカー国が何をして来るか解らない、少数では危険だ
第一小隊はハート国へ、第二小隊はダイヤ国、第三小隊はスペード国、
第四小隊は引き続き生存者の手当を・・・」
「第五小隊は城に戻り王の護衛に・・・」
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「メルティー・・・メルティー無事だったか・・・」
と遠くからこちらに向かってくる影が見えます。
「・・・ジェイド・・・ジェイドなの?スペード国は?自分の国は大丈夫なの?」
と、メルティーは驚きを隠せない表情で訪ね、乗っていた馬から飛び降ります。
「あ、あぁぁ、俺の国は大した事無かったんだ・・・
民間人が数人巻き込まれて死者が数名出たんだが、粗方かたがついた・・・
そんな事より君の国の方が大変な事になっているじゃないか・・・」
急いで来てくれたのだろうジェイドは汗だくで息を切らしていた
「ありがとうジェイド・・・私・・・私どうしたらいいのか・・・」
と今まで押し殺していた感情が一気に解放されたのだろう。
ジェイドにしがみつき泣き崩れてしまいました。
泣き崩れるメルティーをそっと抱きかかえ
「そうか頑張ったな・・・もう大丈夫だ、しばらく君の傍にいるから安心しな・・・
兎に角ここは目立ちすぎる、城に行こう・・・」
と、そっとメルティーを抱きかかえ自分の馬に乗せました。
城に向かいゆっくりと歩き出す馬の揺れを感じながら
メルティーはジェイドの背中に顔を押し付け涙を流し続けていました。
ふと目を開けるとジェイドの右腕の裾に赤い血が付いているのに気がつきます。
「血・・・」
「え?あ、あぁぁ救助の時に付いたのかな?・・・」
その言葉を聞いたメルティーは少し微笑みます。
「あなたも救助に加わっていたのですね・・・
あなたの人に任せておけない、ご自分も作業に加わるその姿勢わたくし大好きです・・・」
と強く後ろから抱きつくように腕に力を入れた。
「こ、こら・・・苦しいじゃないか・・・」
とジェイドは微笑みを浮かべながら言います。
「さあ、着いたぞ・・・メルティー・・・おいメルティー寝るな・・・」
メルティーは疲れとジェイドが来てくれた安心感でウトウトと眠ってしまっていたのです。
「あ・・・え・・・?ご、ごめんなさい、私・・・」
顔を真っ赤にするメルティー。
扉の前ではシャルロットが待っています。
「お帰りなさいませメルティーお嬢様」
「さあ、早く汗をお流しください・・・ジェイド様も汗でビッショリではないですか・・・
お話はそれからで・・・」
と、シャルロットは二人を浴場へ促します。
二人が汗を流している間にも城内は慌ただしく、事の重大さを物語っていました。
「第三小隊は西側の警備に・・・第四小隊は南だ・・・」
騎士団長の声が響き渡っています。
汗を流し少しだけ落ち着いたメルティーはジェイドと共に自室に向かます。
部屋に着くなり胸に飛び込んできたメルティーをジェイドは優しく抱きしめます。
「メルティー、辛いのは俺達だけじゃない、
今回のテロはダイヤ国やクローバー国でも起こっていると聞いた・・・
俺たちがしっかりしなくては・・・」
「そうですね・・・王室の私たちが落ち込んでいては城下の皆に申し訳が立たない
ですね・・・」
とジェイドの胸に顔を埋めます。
「少し眠るといい、傍にいるから・・・眠れば気持ちが落ち着く・・・」
ジェイドはメルティーの頭を優しく撫でます。
「はい・・・そうさせてもらいます・・・ありがとう・・・ジェイド・・・」
夢に吸い込まれるように眠りについたメルティーをジェイドは優しく見守ります。
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ダイヤ国の城下は混乱が収まらず、逃げ出そうとする民間人が城の門に殺到していました。
「この国を出たところでお前ら何処へ行くんだ?
今回の事は同時多発的に行われている・・・どこの国もここと同じ状態だぞ。
とにかく落ち着くんだ・・・!」
となだめようと必死な門番に罵声が降り注がれます。
「ジョーカーの人間の入国を許したのはお前らだろ!!」
「城下町の様子を見ただろう!あれじゃ再建もできない!!」
「この事態を招いたのはお前ら門番だ!!責任取れ!!」
次々に罵る群衆は激しさを増すばかり・・・
別の場所では家族が巻き込まれた者達が武器を手に
「こうなったら戦争だ!!!ジョーカーの奴ら調子に乗りやがって!!
家族の敵は俺達がとるんだ!!」
と、好戦的になってしまっていた。
「お父様・・・このままでは国の秩序が・・・
とにかく民衆を落ち着かせなくては・・・
わたくしはマスターを迎えに・・・
いや、助けて貰えるようお願いしにあちらの世界に行ってきます。
きっとあの方ならこの事態を何とかしてくれるはずです。
お父様は何とか民衆を落ち着かせる方法をお考え下さい。」
「あぁ解った・・・頼むぞフローラ。」
王はフローラを強く抱きしめ、送り出しました。
フローラは急ぎ足で魔法使いサーベストの元へ向かいました。
そこにクローバー国からの使者が到着しました。
使者からクローバー国の惨事を聞いた王は肩を落とします。
「何ということだ・・・ミリアが・・・王妃が巻き込まれたのか・・・」
放心してしまった王に使者が続けます。
「我が国のジャン王はジョーカーとの徹底抗戦をするつもりでございます。
私はその・・・ジョーカー国との戦争の意思を確認しに・・・
連合を組む提案をしにこちらへ来ました・・・」
と告げます。
「ハート国とスペード国は・・・どうなっているのだ?」
と神妙な面持ちで王は使者に訪ねました。
「はい、各国に使者が出向いていますが状況は今の所は不明です。」
俯いたまま答えるクローバー国の使者。
「そうか・・・ダイヤ国は・・・連合の話は断る理由が無い・・・
それに4国は元々1つの国・・・
ジョーカーを見張る為に4つの国に別れジョーカー国を囲んだだけの事・・・
だが・・・事を急ぎすぎては相手の思う壺だ・・・」
「ジャン王に伝えてくれ・・・3日後にあの場所で・・・と・・・」
「かしこまりました。では失礼いたします。」
と使者はダイヤ王に一礼し走り去って行きました。
LOST MEMENTO第3章~四つの国~ 完