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AQUORIA~第一話~

深い深い海の底、そこはアクオリアと呼ばれる、上半身は人間、下半身は魚の身体を持った、別の人類の世界・・・

 

そこには色とりどりの珊瑚が森のように生い茂り

光が届かない海底にも関わらず、眩しい程に闇に差し込む光

それは光苔の一種が珊瑚の裏にビッシリと生息し、強い光を放つからです。

 

アクオリア達は繁殖能力を持ちません

それはアクオリアにオスはいないからです。

 

アクオリアはどうやって生まれるのか・・・

それは、珊瑚に住み着く貝の一種ルピシシェルにアクオリアが

卵を産み付けた中から、数万分の一の確率で生まれるのです。

 

アクオリアはみな、少女のような容姿でとても綺麗な声で歌うと

伝えられています。

 

その歌はあまりの美しさに聞いた者を酔わせてしまうそうです。

航海中に忽然と姿を消した船や、神隠しはアクオリアの歌を聴いてしまった

人々が、声の主を探して海に飛び込んでしまった結果だと言い伝えられ

LOST MEMENTOではアクオリアは誘惑の神とも、人を惑わす悪魔とも

言われているのです。

 

これは自分達の歌が原因で海で溺れたある国の王子様を、偶然助けてしまった

アクオリアのお話です。

 

今から数百年昔、LOST MEMENTOはいくつかの国が同盟を結び成り立つ

連合国のような状態でした。

その中の一つルーアシアと言う国の王子レディアルはその日、ある国との

和平交渉を終え、ルーアシアに戻る最中の出来事でした。

 

時間は真夜中、満月が綺麗な夜でした。日を跨いだ頃、明日の朝にはルーアシアに到着の予定です。

自室で眠っていたレディアルは船の異変に気が付き目を覚ましました。

 

レディアルは隣の部屋にいるはずの執事のジャンを呼びますが返事がない・・・

「おい!聞こえないのか?ジャン・・・どこだ?ジャン!」

レディアルは少しイラつき扉を乱暴に開けますが、そこには誰もいません。

「一体どこへ行ったんだ・・・」

レディアルは親指の爪を少し噛み辺りを見回し気がつきました。

船員の気配がない・・・

 

おかしいと思いながらも自室に戻ろうとしたその時です。

突然船が傾きレディアルは壁に体ごと叩きつけられました。

「ガハ・・・何なんだいったい・・・」

レディアルは身体を起こすとヨロヨロと甲板に向かいました。

 

甲板に到着するとそこには信じられない光景が広がっていたのです。

 

船員が次から次へと海に飛び込んでいるでは無いですか・・・

「おい!お前ら何をやっているんだ!!おい!!聞こえないのか!!」

船員達はレディアルの声がまるで聞こえていないかのように次々と飛び込んでいきます。

 

「何なんだいったい・・・いい加減にしないか・・・」

そう言って船員の腕を掴んだその時です。

 

レディアルの頭の中に何かが広がって行くのを感じました。

 

アクオリアの歌がレディアルの耳に届いたのです。

その瞬間レディアルの頭は真っ白になり意識を失い、そのまま海に身を投じます。

 

「あぁ・・・なんだこの気持ちよさは・・・体が・・・浮いているようだ・・・

暖かい・・・このまま・・・私を包み込んで・・・飲み込んで・・・」

 

深く深く沈んでいくレディアルは、遠い意識の中で優しく体を包み込む

暖かさを感じ、薄らと目を開けました。

すると、そこにはこの世の物とは思えない美しい少女の姿が目に飛び込んできました。

 

そうです、少女は伝説の海底人アクオリア・・・

アクオリアの中の一人ルーミアです。

ルーミアは初めて目にした美しい地上人に興味を惹かれ、掟に背いて助け出してしまったのです。

「なんて美しいの、これが地上人なの?小さな頃から伝承を聞かされて私はもっと恐ろしい化け物なのだと思っていたわ」

ルーミアはそう言うとレディアルを見つめ、「貴方は私が絶対に助けるわ、お願い死なないで。」そう囁くと、揺れる月明かりに向かい急上昇していきました。

 

レディアルは朦朧とした意識の中で少女の姿をジッと見つめ、また意識を失いました。

 

 

レディアルが目を覚ますと、そこは自国の浜辺でした。

 

「ここは?私はいったい・・・」

レディアルは必死に記憶を辿ります。

 

少しずつ思い出されて来た記憶・・・

「そう!船は・・・みんなは・・・一体何が・・・くそ・・・何なんだ・・・

私は何故ここにいるのだ・・・」

 

「大丈夫ですか?レ、レディアル様?・・・」

後ろから女の声が聞こえました。

レディアルが振り返るとそこには若い町娘が立っていました。

「君は?」

レディアルは訪ねました。

「はい、私は城下町の花屋です。

夜風が気持ち良いので散歩をしていましたら、浜辺に人影が見えたもので・・・

まさかレディアル様だとは思いませんでした。

こんなびしょ濡れでいったいどうされたのですか?」

花屋の娘は驚いた様子で訪ねました。

 

「わからないんだ・・・船の・・・そう・・・船の甲板で・・・何か声を聞いたような

・・・そうすると気が遠くなって、気がついたらここに・・・」

 

「それは多分アクオリアですわ・・・」

 

「アクオリア?」

 

「はい、普段は海底深くの珊瑚の森に住むといわれる海底人・・・彼女達の歌声は

あまりにも美しく、聞いたものは皆海に吸い込まれてしまうと言う伝説が・・・」

 

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水のような蝶が飛んだ日は

家から出てはいけないよ

 

足を引き摺った化物が

海の向こうからやってくる

 

かかわってはいけないよ

かかわってはいけないよ

 

鱗を生やした化物が

人に紛れてやってくる

 

目を合わせちゃいけないよ

声を聞いちゃいけないよ

殺されてしまうから

殺されてしまうから

 

水にような蝶が飛んだ日は

家から出てはいけないよ

 

ほら、アクオリアが歌ってる

 

~AQUORIA プロローグ~人の世の伝説~  作詞/さゆ

 

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アクオリアの歌を聞いた船員達は自ら海に飛び込み、声の主を探しそのまま沈んで

行きました。

船上で気を失ったレディアルは柁を失った船と共に海に沈みました。

その時です。

歌っていたアクオリアが沈んでくる船に興味を持ち船に近づいてきたのです。

アクオリアは船の窓から中を覗き込みますが、当然誰も見えません。

船の周りをグルグル周り船全体を見回したアクオリアは甲板でたまたまロープが

足に絡まり船と共に沈んできた美しい青年を見つけたのです。

 

アクオリアは初めて見た男性に、それも国中でも一番の美しさと言われる

レディアルに胸の中が熱くなるものを感じ居てもたっても居られなくなり

足に絡まったロープを外し、レディアルを抱き締め深海から浮上します。

「大丈夫・・・きっと大丈夫・・・貴方は私が助けるわ・・・」

そうレディアルに語りかけました・・・

 

海面に到達したアクオリアは辺りを見回し、光の見える方向にレディアルを

担いで泳ぎました。

アクオリアは浜辺を見つけレディアルを波に乗せて打ち上げると姿を隠し

様子をみました。

 

暫くするとレディアルが目を覚まし、辺りを見回しているのを見てアクオリアは

ほっとしました。

「よかった・・・生きてた・・・私・・・あの人の元に行きたい・・・

貴方を助けたのは私だって言いたい・・・でも・・・私はアクオリア

海の中でしか生きられない・・・」

そう呟きました。

 

暫くすると女がレディアルに近づいて行くのが見えました。

 

「助けが来たんだわ、良かった・・・」

そう言うとアクオリアは後ろ髪を引かれる思いで再び深い海の底へと戻って行ったのです。

 

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「レディアル様、兎に角ここにいては波に飲まれてしまいますわ

これから数時間のうちにこの辺は潮が満ちてきます。さぁ私の肩につかまってください」

町娘はレディアルを抱えると、ゆっくりと立ち上がりました。

 

風に靡く娘の長いブロンドの髪がレディアルの顔を優しく撫でます。

レディアルは娘の髪のほのかに甘い匂いに緊張が解けていくのを感じました。

 

「君、君の名は?」とレディアルが訪ねます。

 

「レディアル様、私の名前なんて聞いてどうするんです?私はただの城下の

町娘ですよ」

 

「そんな事を言わずに、教えてくれ」

レディアルは町娘の肩にかけた腕で娘を抱き寄せました。

 

「ちょ、レディアル様・・・な、名前でしたね、私はレリーシアと申します。」

娘は恥ずかしそうに言いました。

 

「そうか、レリーシアか・・・」

レディアルはそう言うと気を失ってしまいました。

 

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珊瑚の森に戻った、レディアルを助けたアクオリア、ルーミアは物思いに耽ります。

レディアルの綺麗な顔、初めて触れた人間の温もり、胸の奥が熱くなる感じ

どれもこれも初めての事に、心の整理がつかなくなってしまっているのです。

 

アクオリアにオスはいません、生物学的に見ても

恋とか愛という感情を持たないはずなのです。

ですが、このアクオリアの胸の痛みは間違いなくレディアルに対しての恋心

 

どうして良いのか分からない感情にルーミアは苦しみます。

「会いたい・・・貴方に会いたい・・・」

締め付けられる胸の痛みに耐え、ルーミアは一言呟き一粒の涙を流しました。

 

それを見ていた、ルーミアの友達のレイチェルはルーミアは駆け寄り

「ルーミア・・・貴方この前海面に上がった時、途中で姿が見えなくなったけど

何処へ行っていたの?」

と、問いかけます。

「え?どこって・・・別に何処にも行ってないわよ・・・どうして?」

ルーミアは必死に隠し答えます。

「ルーミア・・・あなたって本当に分かりやすいわね、何かあったのね。

・・・」

 

「まさか、あなた地上人と何かあったんじゃないでしょうね?」

と、確信を付いてくるレイチェル

 

「え、な、何もないったら・・・具合が悪くなって・・・さ、先に海底に戻っただけよ」

と、ルーミアは必死に言い訳をしますが、親友のレイチェルには完全に見抜かれてしまっています。

「ルーミア、いい?地上人がどれだけ怖い生き物なのか知らない訳じゃないわよね?

アクオリアに伝わる言い伝えを知らない訳じゃないわよね?」

必死の形相で言い寄るレイチェル

 

「うん、知ってる・・・知ってるわよ・・・沈んできた人を助けてはいけないって

歌でしょ?」

「そうよ、沈んできた地上人を助けちゃいけないの・・・私たちが殺されてしまうのよ?」

 

「でも、どうして殺されてしまうの?私は彼を助けただけ・・・」

 

「ルーミア!今なんて言ったの?助けたの?白状しなさい!」

レイチェルはルーミアに詰め寄ります。

 

観念したルーミアは話し始めました。

「そ、そう・・・満月がとても綺麗で・・・水に揺れる月を眺めていたら吸い込まれるように海面に上がってしまって、気がついたら歌を口ずさんでいたの、そうしたら一隻の船から地上人が次々と飛び込んでいるのが見えて、最後には大きな岩に衝突して

船ごと沈んでいったの・・・私は沈んできた船の周りをグルグルと回っってみたの

そうしたら、一人の地上人が船のロープに絡まったまま、気を失って居るのを見つけたの

言伝えを忘れた訳では無かった・・・でも、初めて見た地上人はとても綺麗で・・・

言伝えで私は地上人はとても恐ろしい姿をしているのだと思っていたのに・・・

全然そんな事なくて・・・気がついたら私は地上人を抱き抱えて砂浜に向かってた・・・」

 

「はぁ~・・・ルーミア、あなた、この言伝えは私たちの掟みたいなものなのよ?

あなたは掟をやぶったのよ?分かってるの?」

レイチェルはルーミアの肩を掴んで体をゆすりながら言いました。

 

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