AQUORIA~第3話~
「があぁぁぁぁ(貴方は・・・あぁ・・・私は貴方に合う為に・・・)」
ルーミアはレディアルに駆け寄り、牢の柵にしがみつきます。
「がぁぁぁ、がががぁぁぁ(あの夜貴方を助けたのは私なの、あの女では・・・)」
ルーミアがそう言いかけた時、レディアルでは無い存在に気がつきました。
レディアルの腕にしっかりと腕を絡め、「まぁ怖いですわ、本当に化物ですわね」
そこにはあの時レディアルに近づいてきた娘レリーシアがいたのです。
「レディアル様?この化け物どうするんですの?」
と尋ねるレリーシア
「あぁ、このままにするわけにも行かないしな、早いうちに処刑してしまわないと
国民を襲われでもしたら大変だからな」
レディアルはそう言うとルーミアに顔を覗き込みます。
「がぁぁぁぁ、がっがっがぁぁぁ(その女じゃない、貴方を助けたのは私なの
お願い気づいて)」
ルーミアは必死に訴えますが、レディアルには全く伝わりません。
「レディアル様、行きましょう?私怖いですわ」
レリーシアはレディアルの腕をひっぱりながら言いました。
「あぁそうだな、近いうちにこの化物を処分する方法考えなくては・・・」
レディアルはそう言うと、レリーシアの肩を抱き消えて行きました。
「がぁぁぁぁがぁあがぁぁ(待って、ねぇ私の話を聞いて)」
ルーミアの訴えはレディアルには届きません。
扉を閉める音が響き渡り、また闇だけが支配する世界がやってきました。
「どうしたらいいの、処刑って・・・私を殺すって事かしら・・・
何故?私は何も悪いことしてないのに、何故殺されなきゃいけないの?
何故?・・・そうか・・・あの方・・・そうレディアル様・・・
あの人に会ってしまった事が・・・助けてしまった事が全ての始まり・・・
あの女はなに?どうしてレディアル様の隣にいるの?あの方を助けたのは
貴女じゃない、私なのよ・・・、でもこのままじゃ殺されてしまう・・・
やられる前に殺らなきゃ・・・この先あの方の傍に居られないのなら
あの女には渡さない・・・いっその事・・・・」
ルーミアの心は愛おしいレディアルへの愛が憎悪に変わって行きました。
「まずはここから出る方法を考えなきゃ・・・」
ルーミアが考えに耽っているとガチャンっと扉の開く音が響き渡りました。
また誰かやって来たのです。
私を蔑み、笑い、憎む為に・・・醜い姿を笑いに来たのです。
「チャンスは今しかない・・・」
ルーミアはそう思い、部屋の隅にうずくまり顔を隠しました。
「おい、顔を見せろ!お前の醜い顔を・・・」
やってきた男はそう言いました。
ルーミアは聞こえないフリをして、黙りを決め込みます。
「なんだよ、今まで散々ガーガー騒いでたのにつまらん
おい、化け物!お前だよ醜い顔を早く見せろよ、言葉は理解できてるんだろ?」
ルーミアは怒りに満ちた感情を押し殺し、黙りを続けました。
「貴様、俺を舐めてるのか?殺されたいのか?お前が死んだって誰も悲しまない・・・
誰も咎めない、さっさと顔を見せろよ」
男はそう言い放ち檻の扉を開きました。
カツッカツッ足音が近づいて来ます。
「おい」
男はそう言うと、髪を掴み力ずくで伏せた顔を持ち上げました。
ルーミアはこのチャンスを待っていました。
「ガギャァァァァ」
と叫び声を上げると、男に体当たりし突き飛ばしました。
突然の事に男は構えきれず、壁に叩きつけられました。
その隙にルーミアは檻から飛び出し鍵をかけました。
「クッ、こ、このやろう・・・」
男は頭を押さえながらゆっくりと起き上がり、檻の扉に手を掛けました。
「お、おい、待て、鍵かけやがったな、クソー」
ガン、ガン、ガン
男は怒りに狂い扉を全力で蹴り続けます。
ルーミアはその姿を尻目に走り出しました。
「出られる、やっと出られるんだ・・・やっとあの人に・・・」
階段を駆け上がりながらルーミアはレディアルの事を考えます。
「兎に角今は逃げなくては・・・」
ルーミアは必死に階段を駆け上がりお城の門をくぐり
森にの奥に姿を隠しました。
「レディアル様・・・これが恋と言うもの?これが愛と言うもの?あの人の前に
姿を出せば私はきっと殺される・・・でも、それでも私はあの人に会いたい
せめて、せめて一度でいいあの人にルーミアと・・・
私の名前を読んで欲しい・・・一度でいい・・・抱きしめて欲しい・・・
たった、たった一度でいいの、それで私は満足なの、心置きなく貴方に殺されるわ・・・」
ルーミアは激痛に軋む膝を抱えながら小さな声で囁きました。
ガサガサ・・・
ルーミアは人の気配を感じ大きな木の影に身を潜めました。
「レディアル様、城からあの化物が逃げたそうですわよ・・・」
「あぁ、あの化け物を見学に行った城の者を襲い逃げたらしいのだ・・・」
「怖いわ、こんな森を歩いていて大丈夫なの?レディアル様?」
「あぁ、城の者が総動員で山狩りを初めている、捕まるのも時間の問題だろう」
「そうですか、良かったわ、もう式も間近ですものね、私が貴方の妃になり
それと同時に王座を譲り受ける大切な日・・・楽しみですわ・・・」
レリーシアはレディアル腕に抱きつくように身体をよせます。
「妃?式?どう言う事かしら?」
ルーミアはそっと木の影から覗き込みました。
その瞬間ルーミアの目に飛び込んで来た物は、強く抱きしめ合いながら口づけを交わす
二人の姿でした。
その姿を見た瞬間、ルーミアの中で何かが弾け飛ぶような音が聞こえたのです。
「あぁ、もう私には何も・・・何のためにこんな姿になって・・・何の為に・・・私は・・・」
怒りに狂ったルーミアは感情に身を任せ牢から逃げ出す時に男から奪ったナイフを片手に木陰から飛び出しました。
「がぁぁぁぁ・・・・」
「ば、化け物・・・」
レディアルは腰のナイフに手をかけた瞬間、化け物が体当たりして来ました。
「キャァァレディアル様―」
レリーシアは驚きと恐怖で腰を抜かし動けません。
レディアルの胸にはルーミアが体当たりと同時に突き立てたナイフが深々と突き刺さり
心臓を貫いていました。
ルーミアは憎しみにかられ、ナイフを更に深く押し込みます。
「ガハッ・・・き、君は・・・」
「全部・・・全部消えてしまえ・・・私の事なんか・・・覚えていない
貴方を助けたのは私!あの女じゃない、もうどうでもいい」
「き、君は・・・がはっ・・・君は、あの時の・・・アクオリア・・・」
「え?」
ルーミアは我に返ります。
心臓を貫かれ横たわるレディアルにルーミアは身体を寄せるように倒れこみます。
もう聞こえない心臓に耳をあて
「どうして・・・どうして思い出すのよ・・・なんで今更思い出すのよ・・・」
声にならない声で叫んだルーミア
「このまま憎悪に塗れたままなら楽だったのに・・・どうして今更・・・
今更なのよ・・・」
ルーミアはレディアルの血にまみれたナイフを再び強く握ると
ナイフを自分の心臓に突きたてようと勢いよく振りかざしました
その瞬間ルーミアの全身に針で刺されたような痛みが走ります。
「キャーーーーー」
余りの痛みに倒れこむルーミアの耳に
「はーりせんぼんのーまそ・・・・」
「え?なに?今の声はいったい・・・」
「針千本飲まそ・・・」
「キャーーーーー」
再び耐え難い痛みが全身を襲います。
「か、神様なの?・・・海の神様・・・」
「針千本飲まそ・・・」
「キャーーーーー」
「私が約束を破ったから神様が怒って・・・」
「針千本飲まそ・・・」
「きゃーーーーー」
「お、お願い・・・もう・・・覚悟は出来ています。殺して・・・」
「はーりせんぼんのーまそ」
「きゃーーーーー」
「ルーミア・・・神との約束を破り、死ぬくらいで許されると思っているのか?」
「はーりせんぼんのーまそ」
「きゃ・・・・」
もう声も出ないほど喉はかれ、意識が遠のいていきます。
ルーミアは消えそうな意識の中で自分の体がドロドロに溶けて行くのを感じました。
「はーりせんぼんのーまそ」
「はーりせんぼ・・・・」
「はーりせん」
レディアル王子を殺してしまい、海の神様を怒らせ姿を消したルーミア・・・
後継者を失った王室は混乱状態に陥り、レディアルが殺された場所にいた
レリーシアはレディアルを殺した犯人にされその場で銃殺されてしまいました。
それから長い時間が流れたある日、レディアルが殺され横たわっていたその場所から
一輪の小さな花が目を出しました。
その花はみるみるうちに成長し、一輪の青い花を咲かせました。
花の中心には小さな繭が一つ付いていたのです。
花が開くと同時に繭は少しずつ破れ、一匹の蝶が羽化しました。
羽化した蝶は透き通った水の羽を持ち、羽ばたくたびに波紋のが広がります。
そうです、海の神様との約束を破ったアクオリアは、もう二度と海に帰る事も、アクオリアの姿に戻る事も許されず、水の蝶に姿を変えられ死ぬ事も出来ず、永遠に陸を彷徨い続けるのです。
それは海底で暮らしていたアクオリア達にとってこの上ない苦しみ・・・
終わる事の無い永遠の苦しみを味わいながら、永遠に彷徨い続けるのです。
ルーミアはお城の周りを一周するとレディアルと母である海に別れを告げ、小さく羽ばたき夜空へと消えて行きました。
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代償と引き換えに 得たのは2本の足
見慣れた耳元の 鰭に疑問ももたずに
逢いたくて 触れたくて
禁忌の扉を空けたの
そうしたら もう一度
微笑んでくれると思ったの
喉を焼く 痛みさえ
貴方の為なら愛しい
地に触れる 痛みさえ
歩ける喜びが消してくれる
だって可笑しいじゃない?
貴方を助けたのは私
通りかかったあの子が
愛されるなんてずるいわ...
※あぁ瞼の裏に焼き付いた
青い瞳の王子様
一目逢えたなら私を
きっと思い出してくれる
そんな浮かれた私を見て人は
「化け物だ!」と逃げて行った
気味悪い 化け物だ
たくさん石を投げられて
逃げたくても 逃げられず
暗く静かな地下に囚われた
なぜそんな目で見るの?
貴方を助けたのは私
抱きしめた感触をまだ
覚えているのに痛いわ...
あぁ恋い焦がれ待ちわびていた
再会は牢に隔たれて
隙間から伸ばした腕を
滑稽そうに見下した
涙を流した私を見て彼は
「化け物め」と背を向けた
歌を歌おう もう叶わない恋の歌
歌を歌おう 人を惑わす愛の歌
とろけた牢番が差し出した鍵
抜け出して逢いに行くから
※あぁ青い瞳(ひとみ)の王子様
見開いていても綺麗ね
白い服を染めていく
鍵から溢れた赤い花
覗き込んだ私を見て彼は
「あの時の...」と目を閉じた
※あぁ消えてしまった憎しみは
海に還すこともできず
私の体を蝕んで
異形なものへ変えていく
羽搏いた私を見て海は
「さようなら」と波打った
代償と引き換えに 得たのは2本の足
故郷も愛し人も 失くした愚かなAQUORIA
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~AQUORIA 完~