AQUORIA~第2話~
太陽が地を照らす間
陸に上がってはいけないよ
人の目に留まれば
石を投げられるから
かかわってはいけないよ
かかわってはいけないよ
沈んできた哀れな者を
助けてあげてはいけないよ
全部罪着せられて
捕らえられてしまうから
かかわってはいけないよ
かかわってはいけないよ
満月の綺麗な夜に
歌を歌ってはいけないよ
お前に魅せられた人に
言い寄られてしまうから
殺してしまいなさい
殺してしまいなさい
ほら、アクオリアが泣いている
~AQUORIA エピローグ~海の底の伝説~ 作詞/さゆ
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「わかってる・・・わかってるわ・・・でも・・・でもね、話もしていないし
地上人は気を失っていたから私には気付いていないはずよ」
ルーミアは必死に言い訳をします。
「そうね・・・確かに地上人はあなたに気が付いてはいないでしょうね・・・
でもね、地上人はあなたから、あなたの心を奪っていったわ。」
「心?どういう事なのレイチェル?心ってどうゆう意味なの?」
ルーミアは問いかけます。
「ルーミア、あなたは今助けた地上人に会いたくて仕方がないんじゃないかしら?
それがなんだかわかる?地上人の言うところの恋・・・」
「恋?・・・ってそれは何?」
「何か?と言われても私だって分からないわ・・・」
「ただ、聞いた事があるの、昔、貴方のように地上人を助けてしまった
アクオリアがどうなったのか・・・」
「え?それってどうなったの?地上人に会いに行ったの?それとも
諦めたの?」
とレイチェルにすごい勢いで迫るルーミア
「私が知っているのは、地上人を助けたアクオリアはどうしても地上人を
忘れる事が出来ず、地上に上がったと・・・その後そのアクオリアの行方は
誰も知らないそうよ」
「私たちって・・・地上に上がる事が出来るの?」
不思議そうな表情を浮かべるルーミア
「えぇ・・・海の神様と契約をしてね・・・ただし、地上人の姿を得る代償は大きいわよ
代償は声と痛み・・・もう今までのように綺麗な声で歌う事はおろか、喋る事すら出来なくなる、そして足を得る代償に動くだけで激痛を伴う身体になってしまうの
こんな状態でまともに生きていく事なんて出来ると思う?悪いことは言わないは
ルーミア地上人の事は忘れなさい。」
レイチェルは必死に説得します。
「そ、そうなんだ・・・代償が大きのね・・・わかったわ・・・諦めるしか
なさそうだね。」
ルーミアはそう言い残すと珊瑚の森の自分の寝座に戻って行きました。
「本当に分かってくれたのかしら?あの子、思い込んだらトコトンだから・・・」
レイチェルは心配そうに言いました。
ルーミアが姿を消したのはそれから数日後の事でした・・・
それから暫くたった満月の夜
月明かりに照らされた海岸に、海から上がる一人の人影がありました。
そう、ルーミアです。
海の神様と契約を結び地上人の身体を手に入れたルーミアでした。
「やっと・・・やっとあの方に会える、会って貴方を助けたのは私だと言いたい
あの人の傍にいたい、早く、早くあの人の元へ」
ルーミアの頭の中は恋焦がれたレディアルの事でいっぱいでした。
地上人の身体を手に入れたルーミア
しかし、その姿はルーミアの想像とは少し違っていました。
手に入れた2本の足はレリーシアの言葉の通り、地に足を付けるたびに
ちぎれそうな位の激痛が走るだけでなく、太ももには消えなかった鱗があり
頭には小さな鰭が生えていました。
姿かたちは地上人に近い存在ではありますが、地上人に鰭はありません
一言で言うと化物・・・
そして、海の神様との契約はそれだけではありません。
地上の生き物を殺したり傷つけたりしてしまうと、呪いが発動して
二度と海には戻れなくなる。
ですが、身体を手に入れたルーミアにとって、これから愛しいレディアル会いにいく
ルーミアにとってはどうでも良いこと・・・神様の声は全く耳に入ってはいませんでした。
地上に上がったルーミアは辺りを見回しますが、月明かりに照らされた浜辺には
人っ子一人いません、
「あのお方は何処にいらっしゃるのかしら・・・」
ルーミアはとりあえず明かりの見える街の方向へ向かう事にしました。
一歩また一歩とゆっくりと歩を進めますが、ルーミアが足を動かすたび
全身に物凄い痛みが走り上手く歩く事が出来ず、何度も何度も転び傷だらけに
なっていきます。
それでもルーミアは愛しいあの方に会いたい一心で必死に街を目指し歩き続けました。
月明かりが夜明けの光に変わる頃、ルーミアは街の入口までたどり着きました。
「何処へ行ったら・・・何処へ向かえば・・・貴方に会えるの?」
ルーミアは街の入口で立ち尽くしてしまいます。
辺りを見回し途方に暮れながらも、前に進もうと足を踏み出すルーミアは
一人の街人に出会いました。
「あの・・・綺麗な・・・とても綺麗な顔をした・・・」
ルーミアが話しかけると
「きゃぁぁぁ」
街人は悲鳴をあげ逃げて行きました。
「なんなのよ・・・私はただあのお方の居場所を聞きたいだけなのに・・・」
ルーミアは少しだけムスっとして頬を膨らませます。
そうです、ルーミアは自分の姿に気づいていないのです。
ルーミアは街の中を彷徨い始めました。
「誰か・・・あのお方を知っている人はいないのかしら」
激痛の走る足をひきずりながら、街をウロつきます。
大きな通りの角を曲がった所で白髪まじりの女性に会いました。
「あの・・・」
ルーミアが声をかけました。
「はい?」
と振り返る初老の女性はルーミアを見るなり腰を抜かして悲鳴をあげました。
「キャー誰か・・・誰か・・・」
驚いたルーミアは逃げ出します。
「何故なの?どうして?私が何かした?」
パニックになるルーミアの後頭部に衝撃が走りました。
「な、なに?」
振り返るとそこには石を持った子供たちが立っていました。
「化物だ!」
「きゃー怖いわ!」
「どっかいけ!この化け物め!」
子供たちはルーミアに向かって石を投げつけて来ます。
「やめて・・・お願い・・・私何もしてないじゃない・・・」
ルーミアは足を引きずりながら必死で逃げます。
しかし子供たちの攻撃は止まりません。
「この化け物め!」
ルーミアの視界が真っ赤に染まり意識が薄れて行きます。
このままでは殺されてしまう・・・
そう思ったルーミアは
子供たちに向かって声にならない声で叫びます。
「ぐわぁぁぁぁ」
その声に驚いた子供たちは一斉に逃げ出しました。
ルーミアはそのまま近くの森に逃げ込み身を隠しました。
「どうして?私はただあのお方の傍に居たいだけなのに・・・
皆んな私を化物って・・・私は神様と契約をして地上人になった・・・
私は・・・化物なんかじゃない・・・」
ルーミアは涙を流しながら血を止めようと傷口を押さえます。
暫く森に潜んでいると遠くから人の声がこちらに向かって来るのを感じ
ルーミアは頭を低くし、草むらに隠れました。
「レディアル様?私は幸せものですわ、たまたまあの時出会わなければ
貴方は私の存在すら知らず、きっと貴族のお嬢様とご結婚されていたのでしょうから」
「これはきっと神様が用意してくれた運命なんだ、海に沈んだ僕を
偶然助けてくれた、いや神様が君が僕を助けるように導いたんだよ」
そんな会話が聞こえルーミアはそっと草むらから声のする方を覗き込み
驚きました。
そこにはずっとずっと恋焦がれていた王子様がいたのです。
これは運命、きっと運命なんだ、そう確信したルーミアは草むらから
飛び出し、レディアルに向かって「貴方を助けたのは私よ」
と言ったはずですが、声を奪われたルーミアの声はレディアルには
動物の鳴き声のようにしか聞こえていません
「なんだこいつ!ば、化け物め、レリーシア・・・早く逃げるんだ」
レディアルはそう言うとルーミアに大きな石を投げつけレリーシアの手を
取り走り去って行ったのです。
「ガァァアアァアァ、」
(まって、私は貴方の事を探して海底から来たのよ)
「ギャァァァァァ」
(貴方の傍に居たいだけなの、お願い待って)
「ガガガガガァァァァ」
(隣の人は誰?貴方のそばに居るべきは私なのに)
ルーミアの叫び声は獣の鳴き声として、森中に響き渡りました・・・
それから数時間後の事でした。
レディアル指揮の元1000人規模での山狩りが開始され
ルーミアは呆気なく捉えられてしまいました。
気を失ったまま城の地下牢に閉じ込められてしまったルーミア・・・
そこは陽の光の一切届かない闇だけが支配する、石に囲まれた空間・・・
ルーミアは目を覚まし辺りを見回し、闇に向かい手を伸ばします。
しかし何処に手を伸ばしても手に当たるのは冷たい湿った石・・・
「私はいったい・・・ここは何処なの?真っ暗で何も見えない・・・」
そう小さな声で囁きました。
「私はただあの方に会いたかっただけ・・・傍に居たかっただけなのに・・・
どうしてこんな事に・・・」
ルーミアは出来るだけ痛みが走らないよう膝をかかえ小さくなり壁にもたれ掛かりました。
いったいどれだけの時間が過ぎたのか、突然扉の開く音が響きルーミアに向かって
足音が近づいてきました。
足音がルーミアの牢の前で止まったのに気がつき、ルーミアは顔を上げました。
そこには愛しいあの方、レディアルが立っていました。