LOST MEMENTO 第五章~メルティー~1
ジェイドの優しさに包まれ眠りに着いたメルティー・・・
ジェイドはメルティーが眠りに着いたのを確認するとそっとベットを立ち上がり
メルティーの部屋から出て行きました。
ハートの国の城内は静まり返り、城下の街で起きている事が嘘のように感じられます。
ジェイドは辺りを見回すと、足音を忍ばせるようにそっと歩き出しました。
暫く行くと他の部屋とは違う大きな扉がありました。
そう、王様の部屋です。
ジェイドはハートの国の王、ガリウス王の部屋の前で立ち止まると
トントン・・・トントン・・・
とノックをします。
暫くすると部屋の扉が開きガリウス王が姿を現しました。
「誰だ・・・・おージェイドか、メルティーは大丈夫か?」
と問いかけます。
「お久しぶりです。ガリウス様・・・メルティーは落ち着いて
眠りにつきました。ご安心ください。」
と答えます。
「そうか・・・面倒をかけてすまない・・・まぁ入りたまえ」
とジェイドを部屋に迎え入れました。
「さぁ、そこのソファーに座りなさい、君が私の部屋に訪ねて来るなんて
珍しいな・・・」
と話しかけるガリウス
「はい、大事なお話があります。
今回の騒ぎで色々と考えさせられたのですが、ジョーカー国と対立している限り
今の現状は変わらないと思うのです。」
と話し始めるジェイド
「それはそうだな・・・だからこそジョーカーはいつかは倒さなくてはいけない
相手・・・悪に屈する事など許されない・・・それに対立している訳ではない
君は父上から何も聞いていないのか?」
と不思議そうに問いかけます。
「え?あ、あぁ、父上からはジョーカー国は憎むべき相手、とだけしか・・・」
「そうか・・・ならば私から話そう」
と、ガリウス王はジョーカー国と4つの国の成り立ちを話し始めました。
「だから、私たち4国はどのような屈強に立たされようと、力に屈する訳には
いかないのだ。」
「そうですか、では単刀直入にお伺いいたします。
この4国がこの先どんなにジョーカー国を憎み対立したとしても
私は勝てる見込みはゼロに近いと考えております。
このまま対立を続けていけば、犠牲者が増えるだけだと思っております。
ならば、勝てる見込みの無い戦いを続ける位なら、ジョーカー国と同盟を結び
共に生きていく道を選ぶべきでは無いかと思い、その説得に伺ったのです。」
「ジェイド殿・・・何を言っているのだ?正気で言っているのか?」
ガリウス王は驚いた表情でジェイドを睨みつけます。
「はい、私は正気でございます。ガリウス王・・・これ以上の抵抗は犠牲を
いたずらに増やすだけです・・・」
ジェイドは頭を下げ王の前に片膝をつきます。
「ジェイドよ・・・何を言っているか解っているのか?
ジョーカー国が好き勝手動き始めたら、この世界だけではない
異世界・・・いやこの宇宙全体のバランスが崩れてしまうのだぞ・・・
私たちが、このLOST MEMENTOの民が奴らを止めねば
関係の無い異世界の者達に申し訳がたたん・・・」
「そうですか・・・では、ガリウス王は何があっても、ジョーカー国と
対立するとおっしゃるのですね・・・」
「当たり前だ、貴様は何を考えておるのだ?城に帰り頭を冷やせジェイドよ」
ガリウス王はそう言うと、振り返り自室の扉を開きます。
ドスッ
乾いた音が廊下に響きました。
「ジ、ジェイド・・・貴様・・・まさか・・・」
ジェイドは隠し持っていた短剣をガリウス王の右脇腹に突き刺さしたのです。
「ガリウス王、貴方が悪いのですよ、生きるチャンスをあげたのに・・・
それを棒に振って・・・残念ですよ・・・さようなら」
ジェイドはそう言うとガリウス王を部屋に押し込み扉を閉めました。
「さて、次は・・・」
ジェイドはそう言うと階段を下り城の応接間に向かいました。
応接間は逃げて来た城下街の人々や軍の幹部で大騒ぎになっています。
扉を入ってすぐ脇にあるソファーに王妃が力なく座り込み頭を抱えています。
ジェイドはおもむろに王妃の隣に腰掛け
「アーリア様大丈夫ですか?」
と声を掛け飲み物の入ったグラスを差し出します。
「ジェイド?ありがとう・・・メルティーは?」
と訪ねながら、グラスを受け取ります。
「はい、錯乱しておりましたが、今は落ち着いて眠っております。」
「そうですか、ありがとうジェイド」
と言いながらグラスの水を一気に飲み干しました。
「いえ、私に出来ることはこれ位しか・・・」
と答えながら横目で王妃を見つめます。
「う・・・が・・・がは・・・」
アーリア王妃は突然苦しみだし、喉を掻きむしります。
「アーリア様・・・さようなら」
とジェイドはアーリアの耳元で囁きながら暴れないように押さえつけます。
暫くするとアーリア王妃の身体から力が抜け、ジェイドにもたれかかります。
ジェイドは周りに気づかれないように、そっと王妃を元の位置に座らせ
応接間を出ました。
応接間を出たジェイドはそのままメルティーの元へ急ぎます。
「あら、ご無沙汰しております。ジェイド様」
と声を掛けたのは、大魔法使いサーベストの一番弟子のアリシアでした。
魔法使いは修業中は何処の国にも属せず、何処の国にも属さない迷いの森で
生活をして、一人前になるとそれぞれの国に専属として王様に仕えるように
なります。
アリシアはつい最近サーベストに認められ、ハートの国に属した魔法使いで
王に命ぜられ、魔法の道具を迷いの森に取りに行った戻りに、
たまたまジェイドを見つけ声をかけたのです。
「や、やぁ、アリシア・・・久しぶりじゃないか・・・」
言葉に詰まるジェイド・・・
「随分とお急ぎのようですけど、どうかなさいました?」
アリシアは訪ねます。
「いや、何でも・・・何でもないんだ・・・」
と言いながら目をそらすジェイド
「ジェイド様・・・・ですよね・・・?」
と不思議そうに尋ねるアリシア
アリシアは元々はスペードの国の民で、代々城に仕える家系の娘で
幼い頃からジェイドの事はよく知っていたのだ。
「な、何を言っているんだ、私がどうしたと言うんだ・・・
先を急ぐので失礼する・・・」
ジェイドはそう言うと急いで城の二階へ駆け上がった・・・
「変なジェイドさま・・・」
アリシアはそう呟くと応接間に向かい歩き出しました。
ジェイドはメルティーの部屋の前で立ち止まり呼吸を整え、そっとメルティーの部屋に戻ると、まだ眠っているメルティーの横に座りました。
ゆっくりと目を覚ましたメルティーは、目を擦りながら「ジェイド、何処へ行っていたの?」
と訪ねます。
ジェイドはメルティーを抱きしめながら「お父さまとお母さまにご挨拶に行っていた
だけだよ・・・」と答えると
自身の右手の親指を強く噛むと、血でメルティーの背中に魔法陣を生成し
「さようなら・・・メルティー」
と耳元で囁くと魔法を発動させた・・・
最後の言葉にハッと目を覚ましたメルティー
しかし時既に遅く、メルティーの身体は背中に書かれた魔法陣に吸い込まれて
行きました。
ジェイドが発動させた魔法・・・それはLOST MEMENTOの秘伝中の秘伝
危険すぎると、サーベストの先代の先代が迷いの森のずーっと奥にある
洞窟の奥深くに封印され、使用する事を禁じられた魔法「soul division」
メルティーの肉体と精神はバラバラにされ、身体はLOST MEMENTOの何処かにあると伝えられる「時の止まった世界」に飛ばされてしまいました。
「時の止まった世界」それは時間さえも流れる事を忘れてしまった世界・・・
沢山の人や動物、植物、無機物までもがDNAレベルで記憶を失い、考える事はおろか
身体を動かす事も忘れ、記憶を留める術もなく、世界中を漂っている世界
空気さえも記憶を失くし、光を通す事も忘れ世界は暗闇に閉ざされた世界・・・
メルティーの肉体はその世界で目を覚ましますが、精神を引き剥がされ何も
覚えてはいません・・・
「言い伝えでは彷徨う記憶を集め、持ち主に返していく事で時が動き出す。」
とありますが、定かではありません。
その世界で目覚めたメルティーは世界を永遠に彷徨う事になるのです。
そして精神は「鏡の世界」と言われる実体を持つ事が出来ない世界
それは鏡の中にある別の空間、無限に広がるその空間には無数の扉が存在し
世界中にある鏡を繋いでいます。
メルティーは一つの扉を開き中に入りました。
部屋に入ると眩しい光が飛び込んできました。