LOST MEMENTO 第一章~第一ドールフローラ~3
「じゃあフローラ、君の世界の成り立ちはなんとなく解った・・・
次は向こうの世界にいてこちらの鏡が発見された事を何故知り得たのか
教えてくれないか?」
―いろいろ話は聞かせてもらったが、まだまだ分からないことだらけだ。
今は少しでも情報がほしい。―
「はい、LOST MEMENTOでも、まだ一部の者しか知らないのですが
鏡の封印に異変が現れたのです。」
「それに最初に気付いたのはわたくしの父、ダイヤ王でした・・・」
「何がおきているのか?正確な所は掴めていないのですが
ジョーカー国から今までには感じられなかった・・・邪悪な・・・
不思議な気と言うか・・・息の詰まるような気が発せられている事に気づき、
調べていたのです。」
「この世界と鏡で繋がっている事が解ったのも、今回の事があり古文書を
調べていて解った事です。
LOST MEMENTO最長老の魔法使い、サーベスト様の予言魔法によって
鏡が発見される事が解り、誰かがこちらの世界に行って何とかしなくてはとなりました。
でなければ鏡の封印が解け、ジョーカー国がこちらの世界の発見者を誘惑し、
両国から全てを支配しようとする事は明白でした」
暗い表情で伏し目がちになったフローラは自身を抱きしめ少し震えているようにも見えました。
「ただし、まだこの事は公表されていません・・・一部の王族だけが知っている
だけです。国の民を巻き込みたくは無かったので、多少なりともこちらの世界を
知っているわたくしが、魔法の村と連絡を取りなんとかこちらの世界に来るための
手はずを整えたのです。」
「わたくしがこちらに来ている事は父しか知りません
勿論わたくしが、こちらで生まれた人間だという事は誰も知りません・・・」
「そうなのか・・・って、え?大丈夫なのか?絶対にばれるだろう?
何日も姿が見えなければおかしいって思って探すんじゃないか?」
マスターは慌てて立ち上げりました。
「ガタンッ!!」
その勢いで掛けていた木製の椅子が後ろに倒れてしまいます。
「うふふっ」
そんなマスターの様子を見て暗い表情を浮かべていたフローラに小さな笑みが灯りました。
「それが大丈夫なのです、こちらとLOST MEMENTOでは時間の流れが違うので
こちらの1週間が向こうの1日なのですよ。」
「そ、そうなんだ・・・」
すごく大きな星だって言ってたからなぁ・・・それが関係しているのかなぁ・・・
と、マスターは色々な考察を巡らせながら答えます。
倒れた椅子を元に戻しながら。
そんな話をしているうちに夜は更けていきます。
「さあ、そろそろ寝ようか・・・」
とマスターが切り出しました。
「そうですね・・・こちらの世界ではもう数時間で朝日が昇る時間になってしまいますしね」
時間を理解したからか、急に眠気が襲ってきます。
ふあーっと小さなあくびをしてフローラは目を擦ります。
「んん・・・では、隣に失礼します」
とマスターの横になっているベットの隣に潜り込んで来ました
「なななな!?ちょっ、ちょっと待て!!!!」
マスターはビックリしてベットから飛び出しました。
心臓が痛くなるほど大きく早く脈打って思わず胸を押さえます。
「・・・?どうしたんですか?」
フローラは不思議そうに首をかしげてマスターを見つめます。
「おまえ・・・いくらドールとは言っても女の子だぞ・・・
初対面の男の布団に潜り込んで来ちゃダメだろ・・・」
と焦りながら顔を真っ赤にして言います。
きょとんとした目のフローラは少し困ったような表情で頬に手を置きました。
「ではマスターはわたくしに床で寝ろとおっしゃるのですか?」
フローラはLOST MEMENTOではお姫様です。
床で寝るなんて事をした事がないのです・・・
「わかった・・・わかった・・・、俺が床で寝る
床で寝るからフローラはベットで寝なさい」
深く呼吸をして心臓を落ち着けながら、しどろもどろに答えます。
「わたくしは気にしませんよ、ですからこちらにどうぞ」
とかわいらしく自分の隣を手でポンポンとするフローラ。
「いや・・・いや、いい・・・これでも俺は男だ・・・いくらドールとは言っても
久しく女性と触れ合っていない僕には冷静でいれる自信がないし、間違いなく寝れない
から、僕の事は気にしないでフローラはベッドで寝てくれ・・・」
今思えばなんて恥ずかしいことを言ってしまったんだろうと思うでしょう。
ただ、そのくらい冷静でいられなかったのです。
「そうですか・・・わかりました」
と、ちょっと残念そうな表情で答えます。
「では・・・お休みなさい」
「あぁ・・・お休み・・・」
毛布に包まり床に横になりながらマスターも答えます。
今日一日でたくさんのことがありました。
頭の中の整理もまだついていない中で眠りにつくのは難しく、
その夜はなかなか寝付くことができませんでした。
・・・
・・・・・・
「・・・ます・・・」
「・・・ざいます・・・」
「おはよう・・ざいます・・・」
「ん・・・んんん・・・」
頭の上から声が聞こえる。
これは夢・・・?現実・・・?
マスターはゆっくり目を開けます。
「おはようございます。マスター」
目の前に飛び込んできたのは白い肌でオッドアイの美しすぎるドール
「・・・は!」
マスターは驚いたように飛び起きます。
「おはようございます。マスター」
「全然起きないんですもの・・・死んでしまったのかと思いましたわ・・・」
ほっとしたような、でも少しすねたようなフローラ
「あぁ・・・おはよう・・・」
ボサボサの頭をかきながら朝日が眩しくて目が半分開けられないまま答えます。
「死んでるわけないだろう・・・ってか息してるのくらいわかるだろう・・・」
「えっと、今は・・・何時だ?」
「はい・・・朝の10時ですよ」
「た だ し、まる1日たってますけどね・・・」
フローラは悪戯に片方の頬を膨らませてみせます。
「え!?1日だって!?どう言う事だ?」
「はい、恐らくわたくしとの契約にかなりの体力を消耗したのでしょうね
まる1日寝ておりましたよ・・・」
確かにあの痛みは尋常ではなかったが・・・まさかこんなに眠りこけてしまうとはな
「そうだったのか・・・って事は計画実行は明日って事か・・・」
マスターは寝ぼけた頭で必死に考えながら答えます。
「はい、そうですね。」
「明日の計画の成功と共に全てが終わります。」
「よし・・・じゃあ、明日の準備とシュミレーションをしておこう」
マスターは何かを決意したかのような表情を浮かべ立ち上がります。
「わかりました・・・では、まず時間ですが、会場のオープンが
午前10時のようです。
恐らく当日はかなりの数のオープン待ちの列が出来ると思います。
人ごみに紛れるならこの時が一番かと思います。」
「そうだな、オープンした後の人がまばらになってからでは目立つだろうからな」
「じゃあ、ここから会場まではおおよそ1時間位だから、余裕を見て
8時半頃に出発だな。」
「はい、そうですね、会場付近をあまりうろつくのも良くは無いと思いますので
それくらいがベストだと思います。」
「そして会場に入ってからなのですが」とフローラは手書きの
会場の見取り図を出した・・・
「これって・・・作ったのか?・・・」
「内部までよく調べられたな・・・」
「はい、実は昨日まで別の展示で会場が使われていたので、マスターが眠っている
間に直接行って調べて来ました。」
ふふんっと鼻で笑うかのようにフローラは得意気な顔をします
「アクティブだな・・・」
マスターは驚きの表情を浮かべた・・・
「だが、正確な内部の情報があるのはありがたい・・・」
フローラの出した見取り図は、正面から入ってまず一番大きなリビングとでも言おうか
大きな部屋があり、その左手側に大きなカーブを描いた階段、廊下を通じて左に一部屋
右に一部屋、奥に一部屋、そして左の部屋と奥の部屋の廊下の扉の間に化粧室に通じる
小さな扉があり、二階は階段を上がって正面に3部屋横並びになっている。
そして右手一番奥に事務所か管理室だろうか、小さな部屋がある。
「で、目標の鏡なのですが、建物の作りから考えると、正面奥のこの部屋」
と指さします。
「この部屋は入口が正面からの廊下から通じる扉のみで、他に出入り出来る
場所がありません。警備を考えるとここが一番厳重だと思いますから
恐らくこの場所に展示されるのではないかと考えています。」
「そうだな、普通に考えて入口付近の警備が難しい所に展示する訳がないな」
「で、どうする・・・別室に展示されるとなると君を置いてくるにも
隠せる場所が無いんじゃないか?」
困ったな・・・
フローラを隠せないんじゃ今までの作戦も練り直しじゃないか・・・
「そうですね、もし奥の部屋に展示されたと考えると、同室内にわたくしを
置いていくのはおそらく不可能・・・」
「わたくしが見てきた作りがそのままで、展示物だけが入れ替わったとすると
他の部屋にも隠れる場所は無いと思われます。」
「ですが、1箇所だけ監視が薄くなる場所があるのです・・・」
「え?監視が薄くなる?・・・何故?」
「はい、化粧室です。」
にやりとフローラは笑って見せます
「ここだけはカメラも無いと思いますし、特に女性側の化粧室に関しては
男性の警備員は入って来られない場所・・・」
「そして、壁の隣は目標の部屋なのです。」
フローラは誇らしげな顔で説明します。
「なるほど・・・それなら・・・・?ちょっと待て・・・
今女子トイレって言ったよな・・・そこまではどうやって行くんだ?
君が直接歩いて行ってしまって警備員に見られたら計画は台無しだ・・・
他に協力者なんているわけないよな・・・」
「はい、そうですね・・・」
フローラは何か言いたげに、また何かを堪えるように答えます。
「まさかとは思うが・・・」
「くすっ、きっとそのまさかが当たってると思いますよ。」
と、笑いを堪えながら答えます。
「やっぱりそうか・・・ぼ、僕は嫌だぞ!女装までするなんて契約をした
覚えはないぞ!」
顔が真っ赤になったマスター。
男性に産まれた以上男らしくありたい
そんなマスターの信念にひびが入ります
「ですが、他に方法がありますか?」
「マスターは今回の計画が完了するまでは契約してくれるとおっしゃいました。」
「いや・・・うん・・・それはそうだが・・・」
と、黙り込む・・・
「それに・・・」
と言いながらフローラはガサゴソと何かを取り出します。
「ほら、きっとマスターにお似合いですよ。」